請求書
ずっしり・4分

請求書:誰かに優しくされると、怖くなる

匿名の警戒する人・4分・ずっしり

優しくされると、構える。

「何か裏があるんじゃないか」って、つい考えてしまう。

職場の先輩が「大丈夫?手伝おうか」って言ってくれた。普通の言葉。普通の優しさ。

でも私の頭は、すぐに回り始める。

この人、何が目的なんだろう。後で何か頼まれるのかな。借りを作りたくない。

「大丈夫です」って笑顔で返した。本当は全然大丈夫じゃなかったけど。

昔から、こうだった。

母は優しい日と怖い日があった。

優しい日は、お菓子を買ってくれたり、頭を撫でてくれたりした。嬉しかった。

でもその後に、怖い日が来る。

「あんたのために色々してるのに」「誰のおかげで生活できてると思ってるの」

優しさは、請求書付きだった。

だから学んだ。優しくされたら、気をつけろって。あとで何か言われるぞって。

友達付き合いも、そう。

仲良くなりすぎると、怖くなる。この人、いつか変わるんじゃないか。急に怒り出すんじゃないか。

近づきたいけど、近づくのが怖い。

だから一定の距離を保つ。深入りしない。傷つかない場所にいる。

恋愛なんて、もっと無理。

好きな人ができても、「どうせ裏がある」「いつか本性が出る」って思ってしまう。

相手は何も悪くない。ただ優しいだけ。それなのに、私が勝手に警戒して、勝手に距離を取って、勝手に関係を壊す。

何回も繰り返した。

ある時、カウンセラーに言われた。

「あなたは優しさを信じられないんじゃなくて、優しさの後が怖いんだね」

そうだ。優しさ自体が嫌いなわけじゃない。

優しさの後に来る、請求が怖いんだ。

「でもね、請求書付きじゃない優しさも、世の中にはあるんだよ」

頭では分かる。でも体が信じてくれない。

今も、誰かに優しくされると身構える。

でも最近、少しだけ試してる。

「ありがとうございます」って言った後、何も起きないか確認する。

何も起きない。何も請求されない。

あれ、って思う。この人、本当にただ優しいだけだ。

まだ全然信じられない。10回優しくされて、1回くらい「もしかして」って思える程度。

でも、0回よりはマシ。

いつか、優しさをそのまま受け取れる日が来るのかな。

分からない。来ないかもしれない。

でも、来なくても、私は私なりにやっていく。

警戒しながらでも、人と関わっていく。

不格好だけど、それが今の私のやり方。

― 匿名の警戒する人

同じ棚から、もう一冊

研究所道具屋猫の国の地図