白湯
ふつう・4分

白湯:眠れない夜に、していること

匿名の夜更かし・4分・ふつう

夜中の3時。

また、起きてしまった。

目が覚めた瞬間、わかる。ああ、今日もダメだ。もう眠れない。

隣の部屋から、冷蔵庫のブーンって音がする。外は静かで、たまに車が通る音がする。

この時間が、一番怖い。

昼間は平気なのに、夜になると、頭が勝手に動き出す。

明日の仕事のこと。言わなきゃよかったあの一言。返信してないメール。来月の支払い。5年後のこと。10年後のこと。

考えても仕方ないことばかり。わかってる。でも、止められない。

布団の中で寝返りを打つ。右向き、左向き、仰向け。どの体勢でも落ち着かない。

スマホを手に取る。見ちゃいけないって、わかってる。でも、見る。

SNSを開く。誰かの楽しそうな投稿。深夜なのに「いいね」がついてる。みんな起きてるのかな。それとも、私だけがこんな時間に目を覚ましてるのかな。

時計を見る。3時28分。

「あと3時間で起きなきゃ」

そう思うと、余計に焦る。焦ると、もっと眠れない。

昔は、眠れないことがなかった。布団に入れば5分で眠れた。いつから、こうなったんだろう。

はっきりした原因は、わからない。仕事が忙しくなった頃から、かもしれない。彼と別れた頃から、かもしれない。きっかけは一つじゃない。色々なことが積み重なって、気づいたら、眠れなくなっていた。

病院に行ったことがある。

「睡眠導入剤、出しておきますね」

薬を飲めば、確かに眠れた。でも、朝がぼんやりする。頭に霧がかかったみたいになる。それが嫌で、飲んだり飲まなかったりを繰り返した。

今は、自分なりのやり方を見つけた。

眠れない夜は、まず布団から出る。無理に寝ようとしない。

台所に行って、白湯を作る。電気ケトルがカチッと鳴る音。お湯をカップに注ぐ音。その小さな音が、なんだか落ち着く。

白湯を持って、窓辺に座る。外を見る。街灯がぼんやり光ってる。誰もいない道路。

この時間の世界は、静かで、優しい。

昼間の世界は忙しくて、騒がしくて、気を遣うことばかり。でも深夜は、誰にも何も求められない。ただ、自分だけの時間。

白湯を飲みながら、何も考えない。考えそうになったら、白湯の温かさに集中する。手のひらに伝わる熱。喉を通る温かさ。

それだけでいい。

30分くらいそうしてると、少しだけ眠気が来ることがある。来ない時もある。

来たら、布団に戻る。来なかったら、もう少し窓辺にいる。

朝が来る。眠れなかった日の朝は、重い。でも、昨日よりほんの少しだけマシ。そう思うようにしている。

眠れない夜は、なくならないと思う。

完全に治すことは、たぶんできない。でも、眠れない夜との付き合い方は、少しずつ覚えた。

怖がらないこと。焦らないこと。

眠れないなら、起きていればいい。その時間を、自分のために使えばいい。

深夜3時の世界は、思ったより悪くない。

もし今、眠れない夜を過ごしているなら。

大丈夫。あなただけじゃない。

今この瞬間も、どこかで誰かが、同じように天井を見つめている。

一人じゃないよ。

― 匿名の夜更かし

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