プリン
ふつう・4分

プリン:「断れなかった」が、積もっていく

匿名のイエスマン・4分・ふつう

「いいよ」って言った。

本当は嫌だった。

金曜の夜、疲れてて、家に帰ってダラダラしたかった。でも同僚に「今日飲みに行かない?」って言われて、「いいよ」って答えた。

断る理由が見つからなかった。いや、理由ならいくらでもある。疲れてる。お金ない。明日早い。

でも、言えない。

「えー、いいじゃん、ちょっとだけ」って言われるのが怖い。「ノリ悪いな」って思われるのが怖い。

だから、「いいよ」。

飲み会は楽しかった。たぶん。笑ってた。たぶん。

でも帰り道、どっと疲れが来た。体の疲れじゃなくて、なんか、中身が空っぽになったみたいな疲れ。

こういうこと、ずっとやってる。

「この仕事、お願いしてもいい?」「いいですよ」

自分の分だけで手一杯なのに。

「今度の日曜、引っ越し手伝ってくれない?」「いいよ」

日曜は一日中寝てたかったのに。

「ここ、もう少し直せる?」「はい、大丈夫です」

大丈夫じゃないのに。

気づいたら、自分の時間がほとんどない。スケジュールは全部、誰かの都合で埋まってる。

それでも断れない。

断ったら嫌われるかもしれない。面倒な人だと思われるかもしれない。次から誘ってもらえないかもしれない。

誘ってほしいわけじゃないのに。行きたくないのに。でも、誘われなくなるのは寂しい。

矛盾してる。わかってる。

会社のトイレで、急に涙が出た。理由はわからない。特に何かあったわけじゃない。ただ、疲れた。ずっと「いいよ」って言い続けるのに、疲れた。

その日の帰り、先輩に「今日、飲み行こう」って言われた。

「すみません、今日はちょっと」

言えた。

先輩は「おー、了解」って言って、それだけだった。

怒られなかった。嫌な顔もされなかった。「了解」の一言で終わった。

あれ。

こんなもんなのか。

家に帰って、コンビニで買ったプリンを食べた。テレビ見て、風呂入って、23時に寝た。

すごく普通の夜だった。でも、すごく久しぶりの夜だった。

自分で選んだ夜。誰にも「いいよ」を言わなかった夜。

次の日、先輩は普通だった。何も変わってなかった。

「断ったら関係が壊れる」って、自分が勝手に思ってただけだった。

今も、断るのは苦手だ。つい「いいよ」って言いそうになる。

でも、その前に一瞬だけ考えるようになった。

「本当に、いいのか?」

本当に行きたいなら行く。本当にやりたいならやる。

でも、嫌なら。

「ごめん、今日はちょっと」

それだけでいい。

「いいよ」は、自分のために取っておいていい。

― 匿名のイエスマン

同じ棚から、もう一冊

研究所道具屋猫の国の地図