「いいよ」って言った。
本当は嫌だった。
金曜の夜、疲れてて、家に帰ってダラダラしたかった。でも同僚に「今日飲みに行かない?」って言われて、「いいよ」って答えた。
断る理由が見つからなかった。いや、理由ならいくらでもある。疲れてる。お金ない。明日早い。
でも、言えない。
「えー、いいじゃん、ちょっとだけ」って言われるのが怖い。「ノリ悪いな」って思われるのが怖い。
だから、「いいよ」。
飲み会は楽しかった。たぶん。笑ってた。たぶん。
でも帰り道、どっと疲れが来た。体の疲れじゃなくて、なんか、中身が空っぽになったみたいな疲れ。
こういうこと、ずっとやってる。
「この仕事、お願いしてもいい?」「いいですよ」
自分の分だけで手一杯なのに。
「今度の日曜、引っ越し手伝ってくれない?」「いいよ」
日曜は一日中寝てたかったのに。
「ここ、もう少し直せる?」「はい、大丈夫です」
大丈夫じゃないのに。
気づいたら、自分の時間がほとんどない。スケジュールは全部、誰かの都合で埋まってる。
それでも断れない。
断ったら嫌われるかもしれない。面倒な人だと思われるかもしれない。次から誘ってもらえないかもしれない。
誘ってほしいわけじゃないのに。行きたくないのに。でも、誘われなくなるのは寂しい。
矛盾してる。わかってる。
ある日、限界が来た。
会社のトイレで、急に涙が出た。理由はわからない。特に何かあったわけじゃない。ただ、疲れた。ずっと「いいよ」って言い続けるのに、疲れた。
その日の帰り、先輩に「今日、飲み行こう」って言われた。
「すみません、今日はちょっと」
言えた。
先輩は「おー、了解」って言って、それだけだった。
怒られなかった。嫌な顔もされなかった。「了解」の一言で終わった。
あれ。
こんなもんなのか。
家に帰って、コンビニで買ったプリンを食べた。テレビ見て、風呂入って、23時に寝た。
すごく普通の夜だった。でも、すごく久しぶりの夜だった。
自分で選んだ夜。誰にも「いいよ」を言わなかった夜。
次の日、先輩は普通だった。何も変わってなかった。
「断ったら関係が壊れる」って、自分が勝手に思ってただけだった。
今も、断るのは苦手だ。つい「いいよ」って言いそうになる。
でも、その前に一瞬だけ考えるようになった。
「本当に、いいのか?」
本当に行きたいなら行く。本当にやりたいならやる。
でも、嫌なら。
「ごめん、今日はちょっと」
それだけでいい。
「いいよ」は、自分のために取っておいていい。
---
*© 2026 匿名のイエスマン*