映画を見た。
感動する映画らしい。レビューには「号泣した」「涙が止まらなかった」って書いてあった。
見終わって、何も感じなかった。
いい映画だったと思う。ストーリーも分かった。あのシーンで泣くんだろうなってことも分かった。
でも、涙が出ない。
悲しくないわけじゃない。たぶん。分からない。何を感じてるのか、自分でも分からない。
最後に泣いたのがいつか、思い出せない。
半年前?1年前?もっと前?
昔は泣けた。小学生の頃はすぐ泣いた。中学でも、高校でも、たまに泣いた。
いつからだろう。泣かなくなったのは。
たぶん、泣いちゃいけない場面が多すぎた。
仕事でミスして悔しくても、泣いたら「メンタル弱い」って思われる。理不尽なこと言われても、泣いたら負けだと思った。
彼女に振られた時も、泣かなかった。友達の前で平気なフリをした。「まあ、しょうがないよね」って笑ってた。
親が入院した時も、泣かなかった。しっかりしなきゃって思った。泣いてる場合じゃないって。
そうやって、泣くのを止めてたら、いつの間にか出なくなった。
蛇口を閉めすぎて、壊れたみたいに。
泣けないのは、楽そうに見えるかもしれない。
全然楽じゃない。
泣けないと、しんどさの行き場がない。悲しみが体の中に溜まっていく。重い液体みたいに、底の方にどんどん沈んでいく。
でも出口がないから、ずっとそこにある。
時々、胸が苦しくなる。息がしづらくなる。理由はない。ただ苦しい。
それが涙の代わりなのかもしれない。体が泣いてるのかもしれない。
ある日、YouTubeで犬の動画を見てた。
保護犬が、新しい飼い主に会う動画。犬がしっぽ振って、飼い主の顔を舐めてる。
それ見てたら、目が熱くなった。
あれ。
涙は出なかった。でも、目が熱かった。それだけで、なんか安心した。
まだ壊れてなかった。蛇口が固くなってるだけで、中には、ちゃんとある。
最近、一人の時に試してる。
しんどい時、「しんどい」って声に出してみる。悲しい時、「悲しい」って言ってみる。
誰にも聞こえないところで。部屋の中で。小さい声で。
泣けない。まだ泣けない。
でも、目が熱くなる回数が、少しずつ増えてる気がする。
いつか泣ける日が来るのかは分からない。
でも、もし来たら、その時は止めなくていい。
誰に見られてなくていい。カッコ悪くていい。
泣いていい。
泣いていいんだよって、あの頃の自分に言ってあげたい。
---
*© 2026 匿名の渇いた人*