五センチ
そっと・3分

五センチ:雨の日は、窓を少しだけ開ける

匿名の雨待ち人・3分・そっと

雨が降ると、少しだけ嬉しい。

誰にも言ったことはないけど、雨が降ると少しだけほっとする。
今日は外に出なくていいな、と思える。
予定をキャンセルする口実にもなる。
「雨だからさ」のひと言で、許される気がする。

だから雨の日は、窓を5センチだけ開ける。

ざあざあ降りの日は、部屋の中まで水の匂いがする。
しとしと降りの日は、耳を澄まさないと聞こえないくらいの音が、ずっと続いている。
どちらも好きだ。

雨音って不思議で、聞いていると何も考えなくなる。
普段の頭の中は、やらなきゃいけないこと、言えなかったこと、失敗したこと、そういうものがぐるぐる回っている。
でも雨音を聞いていると、それが少しずつ薄くなる。
消えるわけじゃない。薄くなるだけ。
でも、それだけで十分だと思う。

ソファに座って、膝にブランケットをかけて、窓の外を見る。
見ているようで、何も見ていない。
ただ水滴が窓ガラスを伝っていくのを目で追っているだけ。
どの水滴が一番下まで先にたどり着くか、なんとなく賭けてみたりする。
誰とも賭けていないけど。

1時間くらい、そうしていることがある。
何も生まれない。何も進まない。
スマホも触っていないから、誰ともつながっていない。
ただ雨と、自分だけ。

前に友達に「雨の日、何してるの」と聞かれて、「雨の音聞いてる」と答えたら、少し間があった。
「……え、それだけ?」って。
うん、それだけ。

でもその「それだけ」が、私にはすごく大事な時間になっている。

雨が止むと、少しだけ寂しい。
でも明日また降るかもしれない。
天気予報で傘マークを見つけると、ちょっとだけ口角が上がる。

何かを得るための時間じゃなくて、何も失わない時間。
雨の日の窓際は、私にとってそういう場所だ。

今日も雨が降っている。
窓を5センチ開けて、ブランケットを膝にかけた。
今日も何もしない。
それでいい。

― 匿名の雨待ち人

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