雨が降ると、少しだけ嬉しい。
誰にも言ったことはないけど、雨が降ると少しだけほっとする。
今日は外に出なくていいな、と思える。
予定をキャンセルする口実にもなる。
「雨だからさ」のひと言で、許される気がする。
だから雨の日は、窓を5センチだけ開ける。
ざあざあ降りの日は、部屋の中まで水の匂いがする。
しとしと降りの日は、耳を澄まさないと聞こえないくらいの音が、ずっと続いている。
どちらも好きだ。
雨音って不思議で、聞いていると何も考えなくなる。
普段の頭の中は、やらなきゃいけないこと、言えなかったこと、失敗したこと、そういうものがぐるぐる回っている。
でも雨音を聞いていると、それが少しずつ薄くなる。
消えるわけじゃない。薄くなるだけ。
でも、それだけで十分だと思う。
ソファに座って、膝にブランケットをかけて、窓の外を見る。
見ているようで、何も見ていない。
ただ水滴が窓ガラスを伝っていくのを目で追っているだけ。
どの水滴が一番下まで先にたどり着くか、なんとなく賭けてみたりする。
誰とも賭けていないけど。
1時間くらい、そうしていることがある。
何も生まれない。何も進まない。
スマホも触っていないから、誰ともつながっていない。
ただ雨と、自分だけ。
前に友達に「雨の日、何してるの」と聞かれて、「雨の音聞いてる」と答えたら、少し間があった。
「……え、それだけ?」って。
うん、それだけ。
でもその「それだけ」が、私にはすごく大事な時間になっている。
雨が止むと、少しだけ寂しい。
でも明日また降るかもしれない。
天気予報で傘マークを見つけると、ちょっとだけ口角が上がる。
何かを得るための時間じゃなくて、何も失わない時間。
雨の日の窓際は、私にとってそういう場所だ。
今日も雨が降っている。
窓を5センチ開けて、ブランケットを膝にかけた。
今日も何もしない。
それでいい。
---
*© 2026 匿名の雨待ち人*