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おばあちゃんの畑で

📅 2025-11-03⏱️ 4分✍️ 匿名の孫
癒し自然家族発見豊かさ
土の匂いって、いつからこんなに好きになったんだろう。 子どもの頃は嫌いだった。汚いし、臭いし、服も汚れる。でも今は違う。土の匂いが、私を落ち着かせる。 きっかけは、おばあちゃんだった。 30歳で会社を辞めて、半年間実家に戻った。何もする気が起きなくて、毎日ぼんやり過ごしていた。 おばあちゃんは80歳を過ぎていたけれど、毎日畑に出ていた。「一緒に来るかい?」と誘われて、なんとなく付いていった。 畑は、家から歩いて10分くらいのところにあった。小さな畑。趣味でやっているだけ。トマト、きゅうり、ナス、ピーマン。そんな野菜が植えてあった。 「何をすればいいの?」と聞いた。 「何もしなくていいよ。ただ、そこに座ってな」 おばあちゃんはそう言って、草むしりを始めた。私は畑の端っこに座って、ぼんやり眺めていた。 蝶が飛んでいた。トンボもいた。風が吹くと、葉っぱが揺れた。遠くで鳥が鳴いていた。 何もしていない。何の役にも立っていない。でも、不思議と心地よかった。 次の日も、畑に行った。おばあちゃんは水やりをしていた。「手伝おうか?」と言ったら、「じゃあ、こっちのトマトに水をやって」と言われた。 じょうろで水をやる。ただそれだけ。でも、なんだか楽しかった。 トマトの葉っぱに水がかかる。土が水を吸う。その音、その感触。すべてが新鮮だった。 それから、毎日畑に通った。 草むしりをしたり、水やりをしたり、虫を見つけたり、ただぼんやりしたり。何の生産性もない。お金にもならない。でも、それがよかった。 ある日、おばあちゃんが言った。 「この畑、別に必要じゃないんだよ」 「え?」 「野菜なんて、買った方が安いし楽だもの。でもね、畑に来ると落ち着くんだ。土をいじると、生きてるって感じがする」 おばあちゃんは笑った。 「役に立たないことって、大事なんだよ」 その言葉が、私の心に刺さった。 私はずっと、役に立つことばかりを追いかけていた。仕事で成果を出す。お金を稼ぐ。社会に貢献する。それが「正しい」と思っていた。 でも、疲れた。役に立とうとすればするほど、自分が消えていく気がした。 畑は、何も求めてこない。ただ、そこにある。私も、ただそこにいる。それだけでいい。 トマトが赤くなった。きゅうりが大きくなった。ナスが実った。 収穫した野菜を、おばあちゃんと一緒に食べた。ちょっと歪んでいて、スーパーのものみたいに綺麗じゃない。でも、美味しかった。 「これ、最高の贅沢だね」とおばあちゃんが言った。 本当にそうだと思った。お金じゃ買えない贅沢。役に立たないけれど、豊かな時間。 3ヶ月が過ぎて、私は新しい仕事を見つけた。今度は前ほど頑張りすぎないようにしようと思った。 今も、週末はおばあちゃんの畑に行く。 土をいじる。野菜を育てる。虫を眺める。空を見上げる。 何の役にも立たない。でも、私にとっては何よりも大切な時間。 効率とか、生産性とか、そういうのから解放される場所。ただ、生きているって感じられる場所。 もし疲れている人がいたら。役に立たないことを、してみてほしい。 散歩でも、絵を描くことでも、ぼんやりすることでも、何でもいい。 役に立たないことの中に、本当の豊かさがある。 --- *© 2025 匿名の孫*