たい焼き
ずっしり・4分

たい焼き:あの夜の私へ

匿名の生存者・4分・ずっしり

あの夜の私へ。

消えたかったんだよね。

知ってるよ。覚えてる。あの夜のこと、全部。

布団の中で丸くなって、「消えたい」って何回もつぶやいてた。

死にたかったのかな。たぶん、ちょっと違う。

この痛みを止めたい。この重さから降りたい。朝が来なければいいのに。

「消えたい」は、そういう意味だった。

自分がいなくなれば、この苦しさもなくなると思ってた。

あの夜、何が私を止めたのか、正直よく分からない。

疲れすぎて、何かをする気力すらなかったのかもしれない。

朝が来て、光が差して、なんとなく起きて、なんとなく水を飲んだ。

それだけ。

消えたかったのに、消えなかった。理由はない。ただ、朝が来ただけ。

あの夜から2年経った。

正直に言う。

「生きてて良かった」って、毎日は思えない。

映画みたいに、朝日を見て感動する日は来なかった。

でも、昨日、仕事の帰りにたい焼きを買った。あんこのやつ。食べながら歩いた。

おいしかった。

それだけなんだけど。

消えたかったあの夜の私は、2年後にたい焼きを食べながら歩いてる自分を、想像できなかったと思う。

生きてて良かったかは、まだ分からない。

でも、たい焼きはおいしかった。それは本当。

あの夜、朝まで持ちこたえてくれて、ありがとう。

大した理由じゃなくてよかった。

今の私より。

― 匿名の生存者

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