あの日から2週間、普通に出勤した。
普通に朝礼に出て、普通にメールを返して、普通に電話を取った。
「もう大丈夫?」と上司に聞かれて、「はい、すみませんでした」と笑った。
大丈夫。大丈夫なはず。
だって、あの日は、たまたま調子が悪かっただけ。そういう日もある。みんなある。
そう思おうとした。2週間、うまくいった。
3週目の月曜日、また動けなくなった。
今度は、ブラウスの前まで行けなかった。アラームを止めた瞬間に、身体が布団に沈んだ。
前回は、「何かがおかしい」と思った。
今回は、「また来た」と思った。
それが怖かった。「また」があるということは、これは「たまたま」じゃないということだから。
スマホを持った。上司のトーク画面を開いた。2週間前のやりとりが見える。「体調不良のため」「了解です。お大事に」。
同じことを、また送るのか。
2週間前と一字一句同じ文面を打った。指が震えた。
「おはようございます。体調不良のため、本日お休みをいただきたいです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
前回と一字一句同じ。変えたほうがいいかもしれない。でも、変えたら「前回と違う言い訳を考えた」みたいに見えるかもしれない。
考えすぎだと分かってる。でも、考えることを止められない。
送信した。
上司の返信は、今回も早かった。「了解です。続くようなら無理しないでくださいね」
「続くようなら」。
その言葉が、刺さった。上司は優しく言ってくれてる。でも、「続いてるよね」と気づかれてるということだ。
お昼頃、同期からLINEが来た。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと風邪気味で。明日は行くよ」
嘘をついた。風邪じゃない。何なのか自分でも分からないけど、風邪じゃないことだけは分かる。
同期は「お大事に〜!」とスタンプを送ってきた。猫のスタンプ。
返信する手が止まった。
同期は今、私の分の仕事をしてくれてるんだろうな。月末の集計、取引先への連絡、午後の会議の資料。全部、誰かがやってくれてる。
私がいなくても、仕事は回る。
それが、ありがたいのか、悲しいのか、分からなかった。
夕方になって、布団の中でスマホを見ていた。会社のグループチャットが動いてる。読む勇気がなくて、通知だけ眺めていた。
明日は行こう。
前回もそう思った。前回は、行けた。
今回は、分からない。
明日の朝、アラームが鳴った時、私の身体がどっちに動くか、自分でも予測できない。
それがいちばん怖い。自分のことなのに、自分で分からない。
---
*© 2026 匿名の欠勤者*