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ある欠勤者の記録 ― 診断書をもらった日

📅 2026-03-28⏱️ 5分✍️ 匿名の欠勤者
連載ある欠勤者の記録模索心療内科適応障害診断書
📖 ある欠勤者の記録3/5
クリニックの待合室は、思っていたより普通だった。 壁にポスターが貼ってある。観葉植物がある。雑誌が並んでいる。 もっと重たい場所を想像してた。「心療内科」という看板を見上げた時、足が止まりかけた。ここに入ったら、自分が「そういう人」になってしまう気がした。 予約を取ったのは、同期に勧められたから。 3回目の欠勤のあと、「一回、病院行ってみたら?」と言われた。心配してくれてた。ずっと。 「私、そこまでじゃないと思うんだけど」 「そこまでじゃない人は、3回も会社休まないよ」 何も言い返せなかった。 名前を呼ばれて、診察室に入った。先生は50代くらいの男の人で、穏やかな顔をしてた。 「どうされましたか」 どうされましたか。何から話せばいいか分からなかった。 「あの、仕事に……行けない日が、あって」 「いつ頃からですか」 「先月くらいから。3回くらい」 「3回。きっかけは何か思い当たりますか」 「……特にないです。朝、動けなくなるんです」 先生はうなずいた。責められるかと思った。「それくらいで」と言われるかと思った。 でも先生は、「眠れてますか」と聞いた。 眠れてるかどうか。眠れてると思ってた。でも、考えてみたら、夜中に何度も目が覚める。寝る前にぐるぐる考える。朝起きた時、寝た気がしない。 「……あんまり眠れてないかもしれません」 「食欲は?」 「食べてますけど、おいしいとは思わなくなりました」 先生は、いくつか質問をして、メモを取って、少し黙った。 「適応障害、という状態だと思います」 適応障害。 聞いたことはある。でも、自分の名前の横に置かれると、急に知らない言葉みたいになった。 「ストレスの蓄積で、心と身体が『もう無理です』と言ってる状態です。原因がひとつじゃないことも多いですよ」 原因がひとつじゃない。 それを聞いた時、少しだけホッとした。ずっと「原因が分からない」ことが怖かった。何がきっかけか分からないのに動けなくなる自分が、おかしいと思ってた。 でも、「ひとつじゃない」なら、分からなくて当然なのかもしれない。 「診断書、書きましょうか。会社に出すなら必要でしょうから」 診断書。紙一枚で、「あなたは休んでいい」と証明されるもの。 「……はい。お願いします」 帰り道、封筒を持って歩いた。中に診断書が入ってる。 「適応障害により、1ヶ月間の休養を要する」 この紙を上司に出したら、私は正式に「休職する人」になる。 出したくなかった。出さなければ、まだ「ちょっと体調が悪い人」でいられる。 でも、ちょっと体調が悪い人のふりを続けるのも、もう限界だった。 駅前のドトールに入って、コーヒーを頼んで、封筒をテーブルに置いた。 しばらく眺めてた。 これは、逃げなのかな。 それとも、やっと正しいことをしてるのかな。 コーヒーが冷めるまで、答えは出なかった。 --- *© 2026 匿名の欠勤者*
ある欠勤者の記録