あの絵の前で、3時間立ち尽くした。
美術館に行ったのは、久しぶりだった。何年ぶりだろう。仕事に追われて、そんな余裕なんてなかった。
でも、その日は違った。仕事を休んだ。理由は、特にない。ただ、行きたくなかった。
朝、目が覚めて、「今日は無理だ」って思った。会社に電話して、「体調不良で」って伝えた。
家にいても、何もする気が起きなかった。テレビを見ても、内容が頭に入ってこない。
ふと、外に出た。どこに行くでもなく、歩いた。
気づいたら、美術館の前にいた。
入館料、1500円。高いと思った。でも、入った。
館内は、静かだった。平日の昼間。人は少ない。
適当に歩いた。現代アートとか、よくわからない。でも、なんとなく見て回った。
そして、その絵に出会った。
大きな絵だった。青と緑の、抽象画。タイトルは忘れた。作者の名前も覚えてない。
でも、その絵を見た瞬間、足が止まった。
何だろう。この感覚。
胸の奥が、ざわざわした。涙が出そうになった。理由はわからない。ただ、その絵を見ていると、何かが溢れてきた。
ベンチに座った。絵を、じっと見た。
色の重なり。筆のタッチ。光の当たり方。見れば見るほど、いろんなものが見えてきた。
1時間が過ぎた。でも、まだ動けなかった。
周りの人が、来ては去っていく。私だけが、そこに座り続けていた。
警備員が心配そうに見ていた。「大丈夫ですか?」って声をかけられそうだった。でも、かけられなかった。
2時間が過ぎた。
何を考えていたんだろう。仕事のこと。人間関係のこと。将来のこと。いろんなことが頭をよぎった。でも、何も答えは出なかった。
ただ、その絵を見ているだけで、心が落ち着いた。
3時間が過ぎた。
ようやく、立ち上がった。足が、少し痺れていた。
もう一度、絵を見た。「ありがとう」って、心の中で言った。
美術館を出た。外は、まだ明るかった。
家に帰った。不思議と、少しだけ元気が出ていた。
あの絵が、何を表しているのか、わからない。でも、わからなくていい。
ただ、あの絵に出会えて、よかった。あの3時間があって、よかった。
仕事を休んで、美術館に行った。それは「無駄な時間」だったかもしれない。
でも、私にとっては、必要な時間だった。
芸術って、こういうことなのかもしれない。言葉にならない何かを、感じること。
また、あの美術館に行こうと思う。あの絵に、会いに行こうと思う。
そして、また3時間、立ち尽くすかもしれない。
それでいい。
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