背表紙の色
そっと・3分

背表紙の色:図書館で、一日中本を眺めてた

匿名の読書家・3分・そっと

日曜の朝、パンをかじりながら、今日は何もしないぞ、と決めた。

決めた瞬間にちょっと不安になるの、あれ、なんなんだろうな。

十時、開館と同時に図書館に入った。近所の、小さいやつ。自動ドアが開くと、あの匂いがする。古い紙と、空調と、あとなんだろう、消しゴムみたいな。図書館の匂い、としか言いようがない。

窓際の席を取って、本を選びに行った。

今日はタイトルを見ないで選ぶことにした。背表紙の色だけで五冊。緑、緑、白、でかい写真集、あと一冊は薄すぎて色がわからなかったやつ。

で、読んだかというと、読んでない。

眺めてた。文字の上を目が滑っていくのを、そのままにしてた。普段なら「ちゃんと読め」って自分に言うところを、今日は言わない日にした。

写真集がいちばん良かった。どこか外国の、海と、洗濯物の写真。洗濯物の写真ってなんで良いんだろうな。ひとんちの生活なのに。

昼は外に出て、コンビニのおにぎりを公園で食べた。鮭。ベンチの端っこだけ日なたで、鳩が二羽、こっちのおにぎりに出資を求めてきたけど、断った。

午後、また同じ席に戻った。隣にはおじいさんが新聞を読みに来ていた。たぶん常連。ページをめくる音が、たまにする。それだけの関係。悪くない。

薄い一冊は詩集だった。短い詩をひとつ、四回くらい読んだ。わかったとは言えない。でも、四回読んだ。それはもう、なにかではあると思う。

十六時、伸びをしたら背中がすごい音を出した。六時間いたらしい。

五冊とも棚に返して、一冊も借りずに出た。

外はまだ明るくて、帰り道、なんにも考えてなかった。ほんとに、なんにも。

夕飯どうしよう、って思ったのが、家の手前。たぶん今日いちばん、まともに考えたことがそれ。

― 匿名の読書家

同じ棚から、もう一冊

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