息子が6歳の時、言われた言葉。
「パパなんか嫌い。ママがいい」
その日、私は仕事で疲れていた。帰りが遅くなって、帰宅したのは夜9時過ぎ。息子はまだ起きていて、リビングで妻と一緒にテレビを見ていた。
「おかえり」という妻の声に、私は適当に返事をした。息子が「パパ、見て見て!」と何かを見せようとしたけど、「後でね」と言って、先にシャワーを浴びた。
シャワーから出たら、息子は泣いていた。
「どうしたの?」と聞いたら、妻が小さく首を横に振った。「もう寝なさい」と息子に言ったら、息子は泣きながら言った。
「パパなんか嫌い。いつも後でって言う。ママがいい」
その言葉が、胸に刺さった。
息子は部屋に行ってしまった。妻は何も言わず、後片付けを始めた。私は、リビングに一人残された。
確かに、最近息子とちゃんと話していなかった。朝は早く出て、夜は遅く帰る。週末も疲れていて、つい「後で」と言ってしまう。
でも、仕事をしてるのは家族のためだ。お金を稼ぐために頑張っている。それなのに、「嫌い」なんて。
そう思ったけど、本当にそうだろうか?
息子が見せたかったものは、幼稚園で作った折り紙だった。テーブルの上に置かれたままになっていた。恐竜の形をした、少しぐちゃぐちゃな折り紙。
息子は、これを見せたかっただけだった。5分もかからない。それなのに、私は「後で」と言って、結局見なかった。
翌朝、早く起きて息子の部屋に行った。まだ寝ている息子の横に座って、昨日の折り紙を手に取った。
息子が目を覚ました。
「パパ、これ見て」
私は折り紙を持って、息子に見せた。
「すごいね、恐竜だ。昨日見せてくれたんだよね。ごめん、ちゃんと見てあげられなくて」
息子は少し驚いた顔をしていたけど、すぐに笑顔になった。
「これね、ティラノサウルスなんだよ。先生が教えてくれたの」
息子は嬉しそうに説明してくれた。私はちゃんと聞いた。質問もした。息子は、どんどん話してくれた。
「パパ、好き」
息子がそう言って、私に抱きついてきた。
昨日の「嫌い」は、消えたわけじゃない。でも、「好き」を取り戻せた。それだけで、救われた気がした。
それから、私は変わろうと思った。どんなに疲れていても、息子の話を5分だけ聞く。それだけでいい。完璧な父親になれなくても、息子の顔を見る時間を作る。
仕事は大事だ。でも、息子が「パパ、見て」と言ってくれる時間は、今しかない。その時間を、後回しにしたくない。
今でも、息子に怒られることはある。「パパ、スマホばっかり見てる」って。その度に、ハッとする。
完璧な父親じゃない。でも、少しずつ、息子との時間を大切にできるようになってきた。
もしあなたも、子どもに「嫌い」と言われたことがあるなら、それは終わりじゃない。今から、少しずつ取り戻せる。完璧じゃなくていい。ただ、5分だけ、子どもの顔を見る。それだけで、変わっていく。
息子の折り紙は、今も私の財布に入っている。ぐちゃぐちゃだけど、大切な宝物だ。
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