ダークブラウン
そっと・4分

ダークブラウン:美容院で「いつものでいいですか?」と聞かれなくなった

匿名の常連客・4分・そっと

15年通っていた美容院。いつも同じ髪型だった。

「いつものでいいですか?」

美容師さんがそう聞いてくる。私は「はい、お願いします」と答える。それが当たり前だった。

肩までのストレート。前髪は眉毛の上。カラーはダークブラウン。同じ髪型を15年間、ずっと続けていた。

特に不満があったわけじゃない。でも、満足していたわけでもない。ただ、「変える理由がない」と思っていた。

ある日、雑誌を見ていたら、ショートカットの女性が載っていた。すごく格好良かった。私も、こんな髪型にしてみたい。そう思った。

でも、すぐに打ち消した。

「私には似合わない」
「周りに何か言われるかもしれない」
「失敗したら、取り返しがつかない」

結局、次の美容院でも「いつので」と言った。

でも、心のどこかで、引っかかっていた。なんで、私は変えられないんだろう。髪型一つ変えるのに、こんなに勇気がいるなんて。

それから数ヶ月、ずっと考えていた。そして、ある日決めた。

「次は、変えよう」

予約の日、美容院に向かう道で何度も引き返しそうになった。でも、足を進めた。

美容師さんが、いつものように聞いてきた。

「いつものでいいですか?」

深呼吸をして、言った。

「今日は、変えたいんです。ショートにしてもいいですか?」

美容師さんは少し驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になった。

「いいですね!似合うと思いますよ」

鏡に映る自分の髪が、どんどん短くなっていく。最初は不安だった。本当にこれでいいのか。後悔しないか。

でも、仕上がった髪型を見た時、思った。

「悪くない。いや、いいかもしれない」

家に帰って、鏡を何度も見た。横顔も、後ろ姿も、全部違って見えた。新しい自分みたいで、少し照れくさかった。

次の日、会社に行った。同僚が「髪切ったんだ!似合ってるよ」と言ってくれた。夫は「いいんじゃない?」とあっさり言った。母親は「え、なんで切ったの?」と少し否定的だったけど、それでもいいと思った。

大事なのは、他人の評価じゃない。私が、自分で決めたこと。それが嬉しかった。

髪型を変えただけ。たったそれだけのこと。でも、私にとっては大きな一歩だった。

それから、色々なことが少しずつ変わり始めた。服の趣味が変わった。休日の過ごし方が変わった。人との関わり方も、少しだけ変わった。

「変える」ことは怖い。でも、変えないことは、もっと怖いのかもしれない。

次に美容院に行った時、美容師さんは聞いてこなかった。

「いつものでいいですか?」

代わりに、こう聞いてくれた。

「今日は、どうしますか?」

その質問が、なんだか嬉しかった。私には、選択肢がある。変えることもできるし、変えないこともできる。どちらも、私が決めていい。

変えたかったのは、たぶん髪型だけじゃなかった。でも、始まりは髪型でよかった。小さなことでよかった。

変えることは、勇気がいる。でも、変えた後の自分に、会えてよかったと思っている。

私は、ショートカットにして良かった。それだけで、人生が少し軽くなった気がする。

― 匿名の常連客

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