携帯の充電器
ずっしり・5分

携帯の充電器:夫のDVから逃げた日

匿名の元妻・5分・ずっしり

荷物をまとめたのは、深夜2時だった。

夫が寝静まった頃。音を立てないように、必要最低限のものだけをバッグに詰めた。服、通帳、印鑑、携帯の充電器。それだけ。

玄関のドアを開ける時、心臓が爆発しそうだった。もし起きてきたら。もし見つかったら。

でも、開けた。そして、走った。

結婚して5年。最初の1年は、幸せだった。優しくて、真面目で、いい夫だと思っていた。

変わったのは、2年目からだった。

仕事のストレスが溜まると、機嫌が悪くなった。小さなことで怒鳴るようになった。でも、暴力はなかった。だから、「これくらい、どこの家庭でもある」と思った。

3年目、初めて殴られた。

夕飯の味が薄いと言われて、謝ったのに、平手打ちされた。頬が腫れた。でも、夫はすぐに謝った。

「ごめん、つい手が出た。もうしない」

涙を流して謝る夫を見て、許した。「ストレスが溜まってたんだ」と思った。

でも、それは始まりだった。

暴力は、少しずつエスカレートした。殴る、蹴る、物を投げる。理由は、些細なことばかり。料理、掃除、言葉遣い。何をしても、怒られた。

私は、いつも謝った。「私が悪いんだ」と思うようにした。そうしないと、やっていけなかった。

友達には会えなくなった。携帯もチェックされた。お金も自由に使えなかった。外出する時は、どこに行くか報告しなきゃいけなかった。

気づいたら、私は檻の中にいた。

ある日、あまりにも酷い暴力を受けた。顔が腫れて、肋骨も痛かった。鏡を見たら、知らない人がいた。

「このままじゃ、殺される」

そう思った。初めて、本気で思った。

次の日、夫が仕事に行った後、DV相談窓口に電話した。震える声で、事情を話した。

「今すぐ、逃げてください。一時保護施設があります」

相談員の言葉に、救われた。

でも、逃げる勇気がなかなか出なかった。「夫も悪い人じゃない」「私が我慢すればいい」「離婚したら、どうやって生きていくのか」。色々な不安があった。

それでも、逃げた。あの夜、荷物をまとめて、家を出た。

一時保護施設に着いた時、安堵と同時に、罪悪感が襲ってきた。夫を裏切ったんじゃないか。もっと話し合えば良かったんじゃないか。

でも、施設のスタッフは言った。

「あなたは、何も悪くない。逃げて正解です」

その言葉に、涙が止まらなかった。

それから半年。離婚は成立した。夫は、最後まで謝罪しなかった。「お前が悪い」と言い続けた。

今、私は小さなアパートで一人暮らしをしている。仕事を見つけて、少しずつ生活を立て直している。

まだ、怖い夢を見る。夫に追いかけられる夢。でも、目が覚めると、ここは安全だと分かる。

DVから逃げることは、簡単じゃない。勇気がいる。でも、逃げなければ、命を失う。

もしあなたも、暴力に苦しんでいるなら、逃げてほしい。「自分が我慢すればいい」は、間違っている。あなたは、守られるべき存在だ。

DV相談窓口、警察、シェルター。助けを求める場所はある。一人で抱え込まないで。

私は、逃げて良かった。今は、毎日が怖くない。それだけで、幸せだと思える。

あなたも、逃げていい。生き延びていい。

― 匿名の元妻

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