妊娠が分かって、2ヶ月。検診の日、先生が黙った。
「心拍が、確認できません」
その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「え?どういうこと?」
「赤ちゃんは、残念ながら…」
先生が何を言っているのか、頭が真っ白になった。
流産。
その言葉が、重くのしかかった。
手術の日、夫が付き添ってくれた。手術室に入る前、夫は「大丈夫だよ」と言った。でも、大丈夫じゃなかった。
手術が終わって、目が覚めた。お腹の中は、空っぽだった。
家に帰って、ベッドに横になった。体は痛かった。でも、それより心が痛かった。
夫は優しかった。「次、頑張ろう」と言ってくれた。でも、その言葉が辛かった。次じゃない。今、失ったこの子のことを、悲しみたかった。
友達には、言えなかった。妊娠したことも、ごく一部の人にしか話していなかった。だから、流産したことも、ほとんど誰も知らない。
「元気?」と聞かれても、「元気だよ」と答えた。本当は元気じゃなかった。でも、言えなかった。
なぜなら、流産は「よくあること」だから。
ネットで調べたら、「流産は珍しくない」「次に繋げることが大事」と書いてあった。でも、私にとっては「よくあること」じゃなかった。初めて失った、大切な命だった。
職場では、何事もなかったように働いた。同僚は、流産のことを知らない。休んだのは2日だけ。「体調不良」と言って休んだ。
みんな、普通に接してくる。それが辛かった。私の中では、世界が終わったような気持ちなのに、周りは何も変わらない。
ある日、スーパーで妊婦さんを見た。幸せそうな顔をしていた。
羨ましかった。そして、自分を責めた。
「私の何が悪かったんだろう」
「もっと気をつけていれば」
「あの日、あんなことしなければ」
何度も、何度も、考えた。でも、答えは出なかった。先生は「あなたのせいじゃない」と言った。でも、信じられなかった。
夜、一人で泣いた。声を出さないように、布団にくるまって泣いた。夫には、心配をかけたくなかった。
数ヶ月経った頃、友達が妊娠した。おめでとう、と言った。でも、心の中は複雑だった。素直に喜べない自分が、嫌だった。
半年経って、また妊娠した。でも、怖かった。「また流産したらどうしよう」と思った。毎日が不安だった。
でも、無事に出産できた。娘が生まれた。
娘を抱いた時、流産した子のことを思い出した。「あなたのお姉ちゃん、お空にいるよ」と心の中で話しかけた。
今でも、流産した日のことは忘れられない。あの子がいたら、今何歳だろう。どんな顔をしていただろう。
流産は、誰にも話せない悲しみだ。「よくあること」として片付けられてしまう。でも、母親にとっては、一つの命を失った重い出来事だ。
もしあなたも、流産を経験したなら、悲しんでいい。泣いていい。自分を責めなくていい。あなたは、何も悪くない。
そして、誰にも話せなくても、その悲しみは本物だ。小さな命でも、大切な存在だった。
私は、今でもあの子のことを覚えている。忘れない。それが、私にできる唯一のことだから。
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*© 2025 匿名の母*