35歳まで、出世が人生の目標だった。
同期より早く昇進する。課長になる。部長になる。それが、成功だと思っていた。
毎日残業した。休日も仕事のことを考えた。上司に気に入られるよう、必死だった。
そして、32歳で係長に昇進した。嬉しかった。「やった」と思った。
でも、幸せじゃなかった。
仕事量が増えた。責任も重くなった。部下のミスも、自分の責任。上司からのプレッシャー。板挟み。
家に帰るのは、夜11時。休日出勤も増えた。妻との時間は減った。子どもの寝顔しか見ない日々。
ある日、娘に言われた。
「パパ、いつも仕事ばっかり。もう会社に住めばいいじゃん」
その言葉が、胸に刺さった。
妻も、最近笑わなくなった。「疲れた顔してるよ」と言われた。「このままでいいの?」とも。
次の昇進試験が近づいていた。課長試験。受かれば、もっと給料が上がる。でも、もっと忙しくなる。
「本当に、これでいいのか?」
自問した。
出世して、何が欲しいんだろう。お金?地位?認められること?
そのために、家族を犠牲にしていいのか。自分の健康を壊していいのか。
答えは、ノーだった。
課長試験、受けないことにした。
上司に報告した時、驚かれた。
「なんで?お前なら受かるのに」
「家族との時間を大切にしたいんです」
そう答えたら、上司は呆れた顔をした。
「もったいない。出世のチャンスなんて、そう何度もないぞ」
分かってる。でも、もういいと思った。
それから、働き方を変えた。定時で帰ることを意識した。休日は、ちゃんと休んだ。
給料は上がらない。昇進もしない。同期は、どんどん出世していく。
でも、私は幸せだった。
娘と公園に行けるようになった。妻と一緒に映画を見に行けるようになった。趣味の時間もできた。
疲れた顔をしなくなった。笑うことが増えた。
ある日、妻が言った。
「最近、楽しそうだね」
その言葉が、嬉しかった。
出世を諦めたことを、後悔していない。むしろ、良かったと思っている。
もちろん、出世が悪いわけじゃない。それを目指して頑張る人もいる。それはそれで素晴らしい。
でも、私には合わなかった。私が大切にしたいものは、出世じゃなかった。
家族との時間。自分の健康。趣味。友達。そういうものが、私には大事だった。
もしあなたも、出世のために何かを犠牲にしているなら、一度立ち止まってもいいかもしれない。
本当に大切なものは何か。出世は、それを犠牲にしてまで手に入れたいものなのか。
私は、出世を諦めた。そして、幸せになった。
給料は少ないけど、笑顔は増えた。それで、十分だと思う。
人生は、肩書きじゃない。どれだけ笑えたか、だと思う。
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